写真家・横山隆平、彫刻家・長谷川寛示、作品制作のために来社


アーティスト2名による印刷立ち合いのレポート

サンエムカラーでは、美術館やギャラリーで展示をするアーティストが来社して、作品制作を行うことがあります。今回はアーティストとコミュニケーションを取りながら、紙以外のさまざまなメディアにプリントを行い、作品が完成していく過程をお届けします。サンエムカラーのスタッフは美術関連の印刷を日々行っているので、そこで培ったスキルを発揮する腕の見せ所です。

 

先日、写真家の横山隆平さん彫刻家の長谷川寛示さんが、それぞれの個展に向けた作品制作のため、共にサンエムカラーの京都本社に来社しました。 横山さん、長谷川さんは京都市京セラ美術館で現在開催中の「特別展 跳躍するつくり手たち」で、それぞれの作品を展示するだけでなく、共作も展示しています。また、お二人ともサンエムカラーの印刷技法「カサネグラフィカ」を使って作品を制作することから、今回揃っての制作立ち会いが行われました。今回使われる技法のカサネグラフィカは、メディアにインクを何層も「重ね」て塗ることで、独特の質感を作品にもたらします。

一日がかりの作品制作は、横山さんからスタートしました。

 


横山隆平「WALL cutout / BLIK #01#02」制作風景

横山さんは、サンエムカラーが大判のUVプリンタ「スイスQプリント」を使ったカサネグラフィカの技法を始める前から、これまでに多くの作品のプリントを行ってきました。

今回の横山さんの新作「BLIK」は、鉄板に木枠を取り付けたメディアに、顔料箔やスプレーを施し、その上にカサネグラフィカでプリントを行いました。

今までにいくつもの作品をカサネグラフィカで制作してきた横山さんは、プリントの特性を熟知しており、データづくりから出力方法まで十分に心得ています。プリントするデータの処理も、これまでの経験から横山さん専用にチューニングされたICCプロファイルで変換して、数回のテストプリントを経て本番を行いました。

横山隆平「WALL cutout / BLIK #01#02」完成。

 


横山隆平「WIND [No. 05 May 6, 2023]」制作風景

もうひとつの作品「WIND」は、アルミボードにハーネミューレ紙を貼ったメディアに、顔料箔とスプレーを施してから、プリントを行いました。

このプリント方法は過去にも行っていて、今回は過去の作品と同じ風合いになるように調整してからプリントをしました。

プリントは焼き込みのような方法をとっていて、数回の塗り重ねで意図した仕上がりになるように調整しています。 今回のメディアとなるアルミと顔料箔、スプレーの上へのプリントは、インクの乗り方が異なります。仕上がりを確認しながら、横山さんの望んでいる調子の部分を塗り重ねていきます。

写真制作の基礎である暗室でのプリント現像の焼き込み、シルクスクリーンの追い刷り、そういった手仕事のようなことをデジタルを介して行なう作業は、毎回面白いなと感じています。

横山隆平「WIND [No. 05 May 6, 2023]」完成。

 


長谷川寛示「bottle to bottle」制作風景

以前、長谷川さんは木彫りの植物の葉の上に、テキストをプリントする彫刻作品を制作しました。今回は彫刻作品ではなく、本銀箔とカラーを施した木枠にモノクロのプリントを行います。

仕上がりのイメージの確認のため、まずフィルムにプリントをして、それを木枠に重ねて確認を行いました。モノクロ作品を二階調にした作品は、画像処理やRIPの工程で余計な色分解をしないよう、また風合いが変わらないように処理を施しました。

何度かのトライアンドエラーのなかで生まれたアイデアにより、わざと二階調の生成を荒らす処理を試み、味わいや色気の良さからその方法で最終的に決定をしました。

作家とのディスカッションによって、長谷川さんの作品がブラッシュアップされる瞬間は、この場でなければ起こりえないので、作品の生み出される面白みを感じました。

 

プリントしてみないとわからない

プリントの方針が決まり、テストピースのプリントを行いました。

フィルムの上にに乗せるのと、実際にプリントするのでは、風合いが変わることが予想されるので、まずは本番前に小さいテストピースを制作します。テストピースへのプリントは、フィルムよりも軽い仕上がりになるので、その変化量を逆算してから本番を行いました。

 

引き算の設計

一般のインクジェットプリンタは、モノクロデータでプリントするとカラーインクを含んだ分色を強制的に行います。カサネグラフィカでは、モノクロ作品の場合、黒インクのみや墨基調の分版のような印刷の製版に近い処理を行います。どちらにも長所と短所があります。

当初は黒インクの上にニスを乗せる予定でしたが、銀箔と黒インクの馴染みが良く、ニスを加えると質感に差を与えすぎるという判断から、黒インクを乗せるだけの設計になりました。

この引き算の判断は、工程や手数を増やして付加価値を付けるという発想でなく、良い作品をつくるための思い切った判断で個人的にグッときました。

長谷川寛示「bottle to bottle」完成。

完成した作品は梱包を施した後に、個展が行われる東京のギャラリーへと旅立って行きました。京都、東京の会場で、横山さん、長谷川さんの実際の作品をご高覧ください。

 

サンエムカラーでは、アーティストが構想する作品を具体化するために、印刷技術や作品の方向性を意見交換をしながら、作品制作の協力を行っています。連絡いただけましたら、より良い作品を世に出すためのお手伝いをさせてください。

 


展覧会情報

横山隆平「CITY from the WIND / Carpe diem」 KANA KAWANISHI GALLERY(東京) 2023年6月3日〜7月1日 https://www.kanakawanishi.com/gallery

長谷川寛示「decey,remains」 KANA KAWANISHI GALLERY(東京) 2023年5月27日〜6月24日 https://www.kanakawanishi.com/exhibition-041-kanji-hasegawa

「特別展 跳躍するつくり手たち」 京都市京セラ美術館(京都) 2023年3月9日〜6月4日 https://kyotocity-kyocera.museum/exhibition/20230309-20230604横山さん、長谷川さんそれぞれの作品と共作が展示中。